イサム・ノグチのものづくりの原点に触れる

20世紀を代表する彫刻家イサム・ノグチ(1904-1988)。現代でも魅力を失わない優れた造形作品が世界的に評価されています。
彼は、木や石はもちろん、金属や粘土、時には紙など様々な素材を用いたことでも知られています。そして自ら道具を用いてそれらを加工して作品に仕上げていました。

本展では本邦初公開となるニューヨークのノグチ・ミュージアムに保管されていたイサム・ノグチの道具を映像を交えて紹介するほか、素材に用いた石材、小型模型、研究資料を交えながら、イサム・ノグチのものづくりを紹介します。


会場は屋外の光が差し込む竹中大工道具館の1Fホール。展示は3つの白い円形展示台で構成。ノグチが青年期にパリで教えを受けたブランクーシの白で統一されたスタジオをイメージしています。また照明にはノグチの作品である「あかり」を用いています。
 
窓側にはノグチの略歴と道具の関連についてまとめたバナーを展示しています。
 
最初の展示台は「Woodworking Tools(木工具)」コーナー。展示台は戦後に使用していたニューヨークのマクドゥガル・アレーのスタジオで用いていた円形作業台(木製ドラム)をイメージしています。
  意外と知られていないのですが、イサム・ノグチは少年時代に神奈川県茅ヶ崎に住んでいて、母親の勧めで指物師(家具職人)もとで修業していた時期がありました。そのため日本の木工具はひととおり使いこなすことができましたし、14歳で米国に渡るときには道具一式を詰めて持っていったと記しています。
 
今回展示している木工具は少年時代に用いたものかはっきりしませんが、唯一その記憶を留めるのが「墨壺」。裏面に「大正四年 七月新調 大石磯吉」の銘があり、ノグチ少年時代の道具とわかります。お世話になった職人からもらったものでしょうか?
 
コレクションに含まれる日本製の道具。ノコギリの中には刃こぼれしたものもあり、実用品として使い古したことがわかります。
 
ノグチは日本の道具、西洋の道具を両方とも使いこなしていました。今風にいえば道具のバイリンガルといったところでしょうか。展示品は西洋の押し使いカンナ(左)と日本の引き使いカンナ(右)。道具の詳しい使い方については、館内の常設展示をあわせてご覧ください。
 
2つ目の展示台は「Stoneworking Tools(石彫の道具)」コーナー。イサム・ノグチといえば石の彫刻。それらを生み出した道具と材料が展示されています。
 
石を加工する道具は日本の石工職人がつかっている道具と同じ。ノミとハンマーで刻みます。詳しい使い方は映像でもご紹介しています。
 
これはパリ修業時代、ブランクーシの工房で石の表面を削るのに使っていた道具「鉄道(鋸ヤスリ)」です。前後にギギギギと動かすので「鉄道」と呼ばれていました。
 
AP通信ビルのレリーフ(1939年)制作のときに使用していたゴーグル。ステンレススチールを電動グラインダーで延々と加工しつづけ完成させた思い出が残る資料です。
 
ノグチと共同で作品を製作していた和泉屋・石のアトリエからお借りした石材見本。ノグチが多様な石を用いていたことがわかります。
 
3つ目の展示台は「Pottery and Light Sculpture Tools(陶芸と光の彫刻の道具)」コーナー。
 
ノグチが「光の彫刻」と称した照明「あかり」シリーズ。岐阜のオゼキ社で製造されています。今回特別に、張り型と各種道具、材料見本をお借りすることができました。会場内で上映している映像とあわせて見ると伝統の岐阜提灯の技術で製造されていることがよく理解できます。
 
ノグチは1950年代、芸術家・北大路魯山人を親しくなり、工房を借りて陶芸作品を多く生み出しました。その際に使用していた道具だと思われます。
 
ニューヨークのマクドゥガル・アレーに構えたスタジオの作業台をイメージしたインスタレーション。展示台の上にある「あかりE」のシェードは削り出されている最中の造形物として表現されています。
 
ノグチの岡山時代の関連資料展示です。パリ・ユネスコ本部庭園のモニュメント制作(1958年頃)のためにつくったカリグラフィー2点は必見です。
 
こちらは岡山時代に制作したモニュメントのための習作(小型模型)。彫造の世界ではマケットと呼びます。マケットが展示されるのは珍しいのでぜひこの機会にご覧ください。
 
最奥の壁面には香川県高松市牟礼町に保存されているイサム・ノグチのアトリエ(作業蔵)の写真をあしらいました。実際に現地を訪れるといまでもノグチがここで制作している雰囲気を味わうことができます。
あわせて60インチの大型画面で短い映像作品をご覧になれます。ぜひ展示とあわせてご鑑賞いただければと思います。
  <映像作品>
・イタリア・クエルチェタのヘンローで制作するイサム・ノグチ(3分|1970年頃)
・香川県牟礼のアトリエで「モモタロウ」を制作するイサム・ノグチ(3分|1978年頃)
・オゼキ社におけるあかりの製造(3分|2019年)
  ミュージアムショップでは本展覧会の図録をはじめとして、『ISAMU NOGUCHI イサム・ノグチ庭園美術館』、『イサム・ノグチ 発見の道』(2021年東京都美術館展覧会図録)、『もっと知りたいイサム・ノグチ 生涯と作品』、ポストカードを販売しております。この機会にぜひお買い求め下さい。
  (主任学芸員・坂本忠規)